「下台」
中国語で、与党が下野することをいいます。
3月22日に行われた台湾総統選挙では、国民党の馬英九候補が民進党の謝長廷候補を破り、民進党は「下台」し、国民党が8年ぶりの政権交代を果たしました。
選挙の1週間前に起こった財務大臣と国民党国会議員らの民進党選挙本部への訪問による騒動や、中国のチベット弾圧事件など、過去2回の総統選挙であれば民進党勝利への追い風となるニュースが票につながらなかったこと。民進党の牙城と言われる台湾第二の都市・高雄においても国民党の馬候補が勝利するなど、農民の多い南部の票が国民党に流れたこと。台湾名での国連加盟を問う公民(国民)投票が、ナショナリズムを煽るものではあるが、非現実的ではないかとの見方が広がっていたこと。民進党が与党であったこの8年間の経済失政が不況を招いたとの不信、不満感があったことなど、今回の馬候補の勝利はすでにメディア等で分析されています。
『中国国民党』の党綱領では『中国との統一』が長期的な視野に入っています。馬候補は国民党幹部を父に持ち、大陸から渡ってきた外省人です。国会では1月の総選挙の結果、国民党が議会の3分の2の議席数を手にしています。この数は憲法改正を提案できる力でもあることを全ての台湾の人々は知っています。他方、中国の脅威をあおり、本省人意識、すなわち台湾人による連携を強く呼びかける民進党のアイデンティティーに台湾の人々がこれまで共鳴してきたのも事実です。その上で台湾の人々が選んだ新しい総統は馬英九候補でした。
中国大陸から移り住んできた国民党が、台湾に住んでいた人々を弾圧した「228事件」の年に生まれた赤ちゃんが今は60才。台湾全土に広がった民主化運動が弾圧された美麗島事件の年に生まれた赤ちゃんはもうすぐ30才。38年ぶりに戒厳令が解除された年に生まれた赤ちゃんが今年20才。『国民党』=台湾弾圧との実体験を持つ世代が少なくなってきたこと、民進党が政権を奪取してからの8年間続けてきた「本土化路線」政策で、自身のアイデンティティーは台湾人と考える層が飛躍的に増えたことなどで、本省人、外省人の線引きをする時代ではなくなったようにも見えます。
今回の総統選挙で感じたことは2つ。
過去2回の総統選挙で、総統に求められたものはアイデンティティーでしたが、この間、台湾の方々の間に自己認識意識はすでに浸透し、選挙で最重視されたものは「政策」だったこと。
中国との統一を封じ込め、台湾政策を掲げた国民党が勝利をしたことで、国民党は大陸との「統一交渉・対話」を軽々に行うことが出来なくなったということ。
これから先は、4年後の総統選挙に向けて、民進党がナショナリズムよりも優先できる政策をどれだけ掲げる政党に進化するのか。他方、統一以外のどんな選択肢を国民党が掲げるのかに注目をしたいと思います。
二大政党制はいつでも政権交代が可能です。
より現実的な対応と国家の理想像を掲げた政党が与党になり、期待に応えられなかった政党は下野をするという姿を、日本でも実現したいと思います。